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「私・・・昔から、『真面目な良い子』だったんですよ。でも・・・月並みな言い方ですけど、それが逆にプレッシャーで。自分が本心で『良い子』にしてるのか、それとも単に演技してるだけなのか・・・分からなくなってきちゃったんです」 混乱した僕を優しくなだめて10分ほど経っただろうか。 ベッドの上で僕に膝枕をしたまま、彼女はゆっくり話し出した。 「高校生の時・・・そのストレスに耐え切れなくなって。半ば自暴自棄になって・・・私、援助交際とかしてたんです」 「え・・・?」 驚きを隠せない僕。それが伝わったのか、彼女は少し悲しそうに笑った。 「ふふ、おかしいでしょう。私らしく・・・ないですよね。でも、当時はそれが楽しかったんです。みんなが思う『私』なんか偽物だ、本当の私はもっと汚くて、バカで、ダメな奴なんだって言いたかったんです。変な話ですよね。結局、そんな行動の方が無理してるのに」 キレイだと思っていた。無垢だと思っていた。それらは全部・・・僕の勝手な思い込みで。 僕以外の人間の、同じような思い込みが・・・彼女を追い詰めたのだろう。 「いっぱいのお金を貰って。お父さんと同じくらいの男の人に抱かれて・・・凄く嫌だったけど、でも、なんだか本当の自分が見えたような・・・そして全部自分の意思でやってるんだってことが誇らしいかのようにさえ思えたんですよ」 僕の髪を、優しく撫でる。 「本当、バカな話でしょう。でも・・・それも全部含めて――私なんです」 「・・・うん。分かってるよ」 僕は、素直に思ったことを口にした。 驚いてはいたけれど。だからと言って、それが原因で鈴を嫌いになるなんてことはなかった。 「ふふ、ありがとう。・・・ねえ、コウイチさん?」 「ん?」 「私がどうしてコウイチさんを好きになったのか・・・分かります?」 突然の問い掛け。 「・・・どうしてだろう?」 ぼうっとした声で、僕は悩むふりをする。 「コウイチさん、私に対して全く無頓着というか・・・無関心だったからなんですよ」 「は?」 不思議なことを言う。そういえば・・・確かに、以前は完全に無関心だったのだけれど。そんなことがきっかけだって? 「みんな、私のことを『真面目な良い子』っていう風に見るんです。あと、かよわいとか女の子らしいとか頭が良いとか。何だかもう、くすぐったいを通り越して、煙たいくらい。・・・あ、こんなこと自分で言うとイヤミっぽいですね」 言って、くすくすと笑う。 「だから・・・みんな、表面上の偽物の私しか見てないんだ、って思って。それに慣れちゃってたんです。だから・・・男の人に、そんな風に・・・無関心に、そこにいるのが別に当たり前のような、空気みたいな扱いをされるのが妙に心地良かったんです」 変わった子だな、と思った。 普通なら、喜んだり高慢になったりするだろうに・・・。 やっぱり、ある意味では純粋なんだろう。 純粋だからこそ、自己評価と他人からの評価とのギャップに悩む。中学生や高校生ならでは、といった悩みではないか。 「特別私に優しくしてくれるわけでもなく、誉めておだてて無理矢理にでも仲良くなろうとするわけでもなく・・・そんな『普通』のコウイチさんが、とても新鮮で、素敵に思えたんです」 勿論今も素敵だと思ってますよ、と付け足して、彼女は照れ笑いを浮かべた。 「・・・マサトさんやヒビキさんには、そういう無関心な態度がダメなんだ、って言われたんだけど。分からないモンだなあ」 「ふふ、そうですね。分からないものです」 「それにしても、何だか複雑な気分だなぁ。無関心だったのが良かった、ってことは・・・今は全然無関心じゃないだろうし・・・どうなるんだろう」 「そんな・・・そういうのって、所詮きっかけとか、そういうのに過ぎないと思うんです。好きになってしまえば、好きであり続けることに理由なんて無いと思いますよ」 「そんなモンかな」 「そんなものです」 何だか自分の物言いが子供のようで、僕は少し笑った。 そして彼女も、同じように笑った。 「だから――私は、コウイチさんのこと、何があっても・・・愛していますよ。たとえ、何が起こっても・・・」 「鈴・・・」 「本当の私は、もっと、ずっと、汚れてる。だから・・・ちょっとやそっとのことじゃ、コウイチさんのこと嫌いになったりしません」 「僕も・・・同じだよ」 こんなに醜い、汚れた僕も、丸ごと全部包み込んでくれる。 「君の過去の話を聞いて、それも含めて全部愛しいと思った。悩んで、迷って、困っている君も、可愛いと思った。だから、これからは・・・」 目を閉じる。 安らかな気持ちに、身体を委ねる。 「これからは、何があっても二人で乗り越えていこう」 醜い部分も。汚れた部分も。 人が人である以上、間違いは絶えない。だったら、それも含めて、愛していこう。 「・・・そうですね」 そんな嬉しそうな鈴の声を聞きながら、僕は幸せな眠りについた。 夢を、見た。 僕は、年を取っいて。隣で微笑う鈴も、少し皺が目立つくらいになっていて。 たまたま遊びに来ていたマサトさんも、ヒビキさんも、何だか随分変わっていて。 だけど、幸せそうに笑っていた。 何を言っているのか聞き取ることは出来ないけれど・・・昔の話をしているのだろうか。何だか遠くを見ながら、みんなで楽しそうにしている。 ・・・ああ、今の僕等は、「途中」なんだ。 まだ、これから先どうなるか分からない。だから迷うし、間違うことも多い。 だけど・・・みんなは、年を取ったみんなは、笑いながら話しているじゃないか。 たとえ今は雨が降っていても、それがずっと続くとは限らない。 だから、あんな風に笑って思い出話ができるようになるまで―― 僕は、鈴と共にしっかりと歩いていこう。 どしゃ降りの雨の中でも、君さえいれば――怖くない。 Special thanks to... 雪篠 様 鳥 様 | |