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放課後の帰り道。隣には、朝と同じ男の子がいる。 不思議なことに、朝はぱくぱくとよく動いていた彼の唇が、閉じたままだ。何か、いつもと違う。 まあ、そんなこと別にどうでもいいのだが。 そもそも、何故私は帰路まで彼とともにしなくてはならないのだろうか。 彼が言うには、男女の交際とはそういうものらしいし、世間の一般論では、恋人同士は常に一緒にいるものらしいのだが、私には今一つ理解ができない。 しかし、私の鼓動は早くなっていた。もちろん、意味は違うのだが。 ――私は今、「男女交際の禁止」という校則に背いている。 戒めを破る後ろめたさは何ともいえない快感であることを、私は知った。もしかしたら、犯罪者にでもなるのではないかと危惧したが、犯罪者の心理はこういうものとはかけ離れているように思う。 とにかく、今の彼と私を結ぶのは、朝に感じた不思議な気持ちと、この罪悪感とも言える快感だけである。無論、彼にはもっと他の思いがあるのだろうが。 馨君の思い・・・か。 あまり、ないがしろにする訳にもいかないのだろうな。私は、彼との交際を承諾したのだから、その責任がある。 「どう・・・したの?何故、黙ってるの?」 珍しく、私から話しかける。 彼は、私の言葉が理解できるだろうか。そんな不安がよぎった。 「いや、別に何でも・・・ないよ」 彼は、少し詰まりながら、そう言った。 さすがに今回ばかりは彼に気を使い、言葉の一つ一つを自分の中で噛み砕き、理解していった。が、彼はあまり大したことは話していないらしい。何だか、疲れる。 沈黙。 「ただ・・・キミは、僕のことなんか、あまり好きじゃないのかも知れないな、って思ったんだ。だから・・・不安になって・・・」 あまりの沈黙の長さに、今の彼の言葉が先程の続きであることを理解するのに多少時間がかかった。 ・・・彼のこの言葉には、私は何も言うことができなかった。 ここで言う好きという言葉は、成る程、当てはまらない。しかし、彼に興味はある。それをどう伝えればよいのか、分からなかった。 「朝みたいに、否定、しないんだね」 彼の口元が、卑屈に吊り上がる。 ああ、私の嫌いな表情だ。 彼が、急に立ち止まった。そして、言う。 「だったら・・・だったら、嫌いだって言ってよ。僕に、希望持たせるようなこと、しないでよ!」 卑屈な笑みのまま、涙を浮かべる彼に、またも私の胸は少しずつ熱くなっていく。 「僕が、どれだけキミのこと好きなのかは分かっているだろう?僕がキミを諦めるなんてできるわけがないんだ。だから・・・僕のこと本当に嫌いになる前に、キミから嫌いだって言ってよ・・・」 決して、荒い口調ではない。彼はあくまでも優しく言った。 「嫌いになんか・・・なってない」 「でも・・・好きでもないんでしょう?」 無言。 彼の顔が、絶望へと移り変わる。もう、口元に笑みはない。 私の顔を見つめる彼の肩が、不意にぴくりと痙攣する。そして、驚きを言葉に乗せるように、言った。 「・・・どうして、微笑ってるの・・・?」 ――? 何故・・・? 私は、自分でも気付かない内に、 笑みをこぼしていた。 そして、この熱に全感覚がやられてしまったのか、口元をはじめ全身が鈍い。どうしたというのだろう。 しかし・・・それは、どことなく、甘い痺れ。じわじわと、身体の隅々まで毒のように回っていく。 全身が、がくがくと揺れる。 私は・・・多分、嗤っている。 彼が、私の前から走り去った後も、しばらくその痺れは引かなかった。 冷たいものが、頬に触れる。 雨が、降り出していた。 |