祭の合図:4



猛スピードで迫り来る、赤く発光するUFO。
僕らが回避すると、それは再度上空へと舞い上がり、重力や慣性を無視した方向転換をする。
しかしその瞬間――実に僅かな時間だが、UFOは発光を止め動きを止める、、、、、、
そこが唯一の狙い目であると僕は踏んだ。
そして、そのタイミングで攻撃できる方法を、僕はついさっき、この目で確認している。
問題は、アレを打ち破れるだけの威力があるか否かという一点なのだが。
大丈夫だと、チアリーダーのコスプレをした幼馴染は、笑った。

小麦は、先ほどよりも更に大きく振りかぶり。
体を大きく捻るように構えて。
叫び声と共に――武器リコーダーを投擲する!

激しく風を切る音が、確かに、僕の耳にも聞こえた。

「コッチには遠距離攻撃がないとか、そんな甘い話はないっすよ!」
久我さんが叫ぶ。
それに呼応するように、今度は青く発光するUFO。
下部の中央付近から砲台のようなものがせり出して、そこからレーザーを放った。
「うっわ、マジ有り得ねえ!」
ここまで大規模に現実離れしたロアには初めてお目にかかるぜ・・・。
そして、UFOが放った一撃は、難なく小さなリコーダーを捉える!
ヤバい――。
「そんなもんに、負ッけるかぁあああ!」
小麦の咆哮!
そして、その瞬間。

投擲された武器は、炎に包まれ、、、、、光の帯を、、、、突き破ってゆく、、、、、、、

更にそのまま、UFO本体さえも悠々と貫通していった。

発光を止めるUFO。
ゆっくりと高度を下げ――やがて、音もなく、霞のように掻き消えた。
屋上には、強い風だけが残る。
まるで、何事もなかったかのように。
「や・・・った、か?」
僕は、呆然と立ち尽くすばかりだった。
目の前で繰り広げられた光景は、余りにも衝撃的で、理解不能で、ぶっ飛んでいた。
「・・・小麦?」
見事、巨大なロアを打ち倒した小麦は、らしくなく黙っている。
その顔を覗き込むと。
「っ・・・はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・」
額に大粒の汗を浮かべ、息を乱していた。立っているのが不思議なほどに。
あの小麦が、ここまで消耗するほどの攻撃だったということか。
僕は黙って小麦の肩を支え、小さな頭をそっと撫でた。

「・・・くっはぁ! 負けた負けたぁ! いやぁ、もう完敗っす! あはははは!」
「うおっ」
何だ急に!?
僕は慌てて久我さんを見やる。
「マジ強いっすね、神荻センパイ。反則っすよー」
ぺたりと座り込み、先ほどまでの緊張感が嘘のように笑っている。
こいつは、本気で分からんね。理解の範疇外だ。
「とにかく」
僕には、未だ息の整わない小麦の代理として――情報を聞き出す義務がある。
「聞きたいことが、山ほどあるんだが?」
「はい、何でも聞いちゃってください。ボクに答えられることなら全部お話しするっす」
「そいつは、ありがたいね」
一度大きく息を吐き、その間にざっと思考をまとめる。
・・・・・・。
――よし。

「まず、忘れないうちについさっきのことから。
 1体目のロア、カシマレイコもどきな。あいつの仮面の下、顔がなかったんだが、、、、、、、、、
「あー、当然っすよ。ボクは質より量を取るタイプっすから。
 噂話は好きだけど、ひとつひとつに執着はあんまりないカンジっす」
「執着がないと、顔がないのか?」
「そっすよ。知らなかったんすか? 意外っすね」
「僕は何も知らねぇよ。だから困ってんだ」
「ふむ・・・ってか、知らなくてここまで闘えること自体が脅威っすね・・・」
「次。何で僕らにちょっかい出してきた?」
「命令だからっすよ」
「誰からの?」
「んー・・・『組織』からの」
「・・・ってことは、『語り部』とか『修正者』ってのも、その組織内の専門用語だな?」
「おお、さすが。勘が良いっすね」
「意味は?」
「『語り部』ってのは、自分で意図的に噂を作り出せる人間のことっす。
 そして『修正者』は噂を修正できる――化物を打ち倒せる人間のことっすね」
「だから小麦が『修正者』なわけか。でも、僕が『語り部』なのは何でだ?」
「いや、そこはボクの方が聞きたいっすよ。センパイは『語り部』じゃないんすか?」
「・・・・・・そこは、まぁ、どうでもいいや」
「ひどっ。自分で振っておいて!」
「次――ってか、最後」
「はいはい、何なりと」

夕月明を、、、、知っているな、、、、、、?」

その言葉に。
その名前に。
少なからず――久我さんは驚愕する。
「・・・えぇと、それはもう、勘が良いとかそういうレベルじゃないような」
「勘さ。虫の知らせとか悪寒がするとかキナ臭いとか言い換えても良い」
「全部悪い意味なんすけど」
「当たり前じゃないか。アイツは悪だ」
「うわぁ、今さらりと酷いコトを!?」
何だろう、久我さんはあんなヤツに心酔でもしてるのだろうか。
だとしたら、一刻も早くカウンセリングを受けたほうが良い。
そしてしっかりと社会復帰して欲しい。
「夕月さんは――いわゆる、リーダーっすよ」
「『組織』の?」
「そう。名付けて、『黒い悪い夢ナイトメア』」
最低のセンスだ。誰が名付けたか、一発で分かる。
そういえば――
忍び寄る悪魔カウントダウンってのも、夕月のネーミングだろ」
「おお、その通りっすよ。良く分かったっすね?」
この娘、もしかして気付いてないのか。アイツの異常なセンスに。
早期の治療を望んでやまない。
「・・・で、そもそもその組織って何のために作られたんだ?」
「うーん、統一された目的って実はないんすよね」
「何だそれ」
それじゃあ組織とも呼べないのではないだろうか。
「メンバーもそんなに多いわけじゃないんすけど、目的は割とバラバラっす」
「久我さんの場合は?」
「ボクっすか? ボクは単純に夕月さんが好きなだけで――」
実に残念ながら、この娘の救済は既に不可能だ。
「畜生夕月め! 洗脳までやってるとは!」
「洗脳じゃないっすよ!?」
だんだん突っ込みがこなれてきたな。侮れない。
ひとまず、何故か怒ってしまった久我さんを適当に宥めつつ考える。
「というか――問題は夕月自身の目的だな。何のためにこんな組織を作ったのか」
「いやー、そもそも立ち上げたのは夕月さんじゃないっすよ。
 あくまでも、元々あった組織に名前を付けただけっす」
「そうなの? じゃあ元々の組織って――」

「――風舞カザマイ

耳に響く、聞きなれた声。
僕の視界に、ふたつの異物が混じる。
目の前、およそ5メートル先。久我さんの背後。

「そこから先は、俺が話そう」

黒いスーツに、黒いネクタイ。スーツの下のシャツだけが白い。
まるで、喪服。

「ふふふ、会いに来たよ。さあ――祭の始まりだ」

この場に、世界に馴染まない男。
忌避すべき、唾棄すべき敵。

最悪の災厄――夕月明。



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