「情報収集はハル君の専売特許だと思っちゃいけないよ」
――毎度お馴染み、放課後の部室にて。
何故か自慢げに、小麦は言った。
「なんと! 今回は! あたしが直接ネタを仕入れてきたのだ!」
のだ、て。
キャラ変わってんじゃないスか、小麦さん。
「まぁ、確かに小麦が情報を持ってくるのは珍しいな」
「ふふん。あたしもその気になればできるのだよ、ヒイラギコハル君っ!」
セミロングのストレートヘアをかき上げながら胸を張る。
分かりやすい自慢だった。
「で、詳細は?」
僕が問うと、満面の笑みを浮かべつつ、その噂について語り始めた。
今では随分数が減ってしまった、電話ボックス。
この電話の回線には通常のものとは異なる特別なものが使われている。
そのため、真夜中に自分の携帯に発信すると稀に未来の自分に繋がることがある。
未来の自分には3つまで質問ができ、その「自分」が知っていることなら何でも答えてくれる。
但し、この質問中に決して後ろを振り向いてはいけない。
もし振り向いてしまった場合、電話口から手が出てきてどこかへ連れて行かれる。
――というのが、今回の都市伝説の概要らしい。
多分、と僕は思った。
「小麦、情報の出所、当ててやろうか」
「はい?」
「匣詰姉妹だろ」
その指摘に、小麦はすっと目を逸らす。
「・・・まぁ、出所とかどうでもいいじゃん」
「やっぱりか。浅ぇー!」
「浅いとか言うな!」
殴られた。地味に効くボディー。気の短いヤツだ。
匣詰姉妹。
姉、匣詰一理。妹、匣詰一会。
双子で、僕と小麦のクラスメート。
女の子らしい噂や迷信の類が好き――というか、当たり前に信じている。
実に乙女チックな姉妹である。
彼女らの会話からロアのネタを掴んだことは、一度や二度ではない。
だから、僕も小麦も自然に彼女らと仲良くなった。
おそらく今回の噂も、昼飯時の会話ネタとして挙がったのだろう。
僕が知らないことから、きっと昨日今日仕入れたネタであるに違いなかった。
しかし、電話ボックスねぇ・・・?
今時、使ってる人なんかいねぇと思ったけど。
案外そういうところが都市伝説的にはツボなのかも知れないな。
そういえば、電話ボックスというのは本当に特殊な回線なのだと聞いたことがある。
何でも、事件・事故など特に緊急性が高い連絡に使われることを想定しているため
――だそうだ。
都市伝説というのも、適当出鱈目いい加減で自然発生するものばかりではない。
最低限の元があることが多いのだ。
というか、元がないことの方が珍しいとさえ言える。
今回の場合、先に述べた電話ボックスの特殊な事情と最近あまり使われなくなったという辺りの
不気味さから発生したものと見ていいだろう。
それに加えて、「未来の自分と会話できる」という、何ともファンタジックな設定。
こりゃあ、匣詰姉妹が放っておくはずもない。いかにも好きそうなネタである。
「でもさー、小麦」
「なぁに?」
やる気を漲らせた目で僕を見る小麦。水を差すのは忍びないけど――。
「そのロアって、どうやって闘うんだ?手しかないんだろ?」
「ふふん。そこはまぁ、アレよ」
「・・・アレ?」
うん、と頷いて、小麦は自信たっぷりに言い放った。
「出たとこ勝負!」
「浅ぇー!」
やっぱり、情報収集と作戦立案は僕の仕事だな・・・。
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