5番目のマキオ:2



深夜――24時、少し前。部室に4人が集まった。
「みんな遅い! ロアは待ってくれないんだからね!?」
一番乗りの小麦は、当たり前の様にノリノリだ。
っていうか。
「・・・パジャマ?」
「ん? なーに? ハル君」
「パジャマ、だよな」
「うん、パジャマ。何か文句ある?」
見事に、パジャマだった。
水色でヒラヒラした、だけど少し暖かそうなワンピースタイプ。
さすがにそれだけじゃ寒いのか、上から赤のカーディガンを羽織っている。
「文句はないけど・・・なんで?」
「んー、さすがにこの時間に外出って親に言えなくて。窓から抜け出してきたのよ」
小麦は、悪戯っ子のように笑った。
「お前、窓からって」
確か、小麦の部屋は、2階だったはずだ。
・・・馬鹿って凄い。
それでも寒いだろうとか靴はどうしたんだとかその格好でバトる気なのかとか。
突っ込みたいことは山ほどあったが、僕はもう諦めることにした。
「さ、行きますよ」
最終的には、その委員長の号令に従う形で僕らは体育館へと移動することになった。
やっぱり二条は委員長気質だ。
それが分かっているからこそ、生徒会長選挙の際には僕も清き一票を投じたのだけど。
「委員長の仕切りだと、俺としても楽で助かるわけよ」
「あんたそれでも顧問ですか」
「ケッケッケ」
僕の全力の冷たい突っ込みに、伊崎先生は有り得ない嗤い声で返してきた。
この人はもう、ダメだと思った。

夜の体育館は、異様に広い。そして寒い。
学生服で大丈夫だろうと思っていたけど、軽いコートくらいは必要だったかもしれない。
小麦みたいに、テンションだけで暑さ寒さを感じなくなる人間の方が異常なのだ。
「さて、それでは早速、初期配置についてですが――」
体育館のおおよそ北側がステージ、南が入り口という間取り。
北東の角をA、南東をB、南西をC、北西をDとする。
「――ということで、皆さんA〜Dの中でご希望はありますか?」
チョイ待ッた、と言い、伊崎先生が挙手をする。
「て言うかさ、灯りは付けねーの?」
「・・・先生、考えて発言してくださいね?」
「うわ、酷ッ。そのリアクション酷ッ」
この話のポイントである「暗闇」を理解してない発言をする先生もどうかと思うが。
取り敢えず、流そう。ひとつずつ突っ込んでいったらきっと身が持たない。
「委員長、僕はAのポジションでいいかな」
と、僕は自分の初期配置を提案した。
「構いませんよ。あ、できれば私はDが良いのですが」
――D、か。やっぱりそう来る、、、、よな。
「先生と神荻さんは、どうですか?」
「あたしはどこでもいいよ。ロアが出るなら」
「俺もどーでもいいや」
先生の場合は、やる気がないだけのような気がする。
「では、神荻さんはB、先生はCでお願いします。それから――」
きっ、と、そこで何故か小麦を睨む。
「神荻さんは、戦闘には参加しないで下さいね」
「な――」
と、僕が突っ込もうとした刹那。
「嫌よ。あたしだって闘う」
素早く、小麦が切り返した。口調は至って冷静だ。
・・・もっと、キレるかと思ったんだが。
「っていうか、むしろいいんちょさんが引っ込んでればいいのよ」
――早速だが、前言撤回。
うん、コイツ、間違いなくキレてるよ。めっちゃ睨んでるし。鼻息荒いし。
ま、そりゃそうか。なんたって、小麦だしな。
しかし、委員長も負けていない。
「いいえ、ここは引きません。神荻さん、あなた――怪我してるでしょう」
「何のこと?」
「とぼけないで頂けます? 先日の切断魔ジャック・ザ・リッパーの件、私が知らないと思っているのですか」
ニッ、と勝ち誇ったかのような笑みを浮かべ、委員長は挑発する。
そうか、その手で来たか。
つまり。
委員長も、ロアと闘いたいのだ。
おそらくは、小麦と異なる理由で。
「右手、骨折していたでしょう? そんな状態で参戦されても足手まといです」
「小麦、お前・・・」
そこで、伊崎先生が意外そうな顔をした。
そいえば、この人は知らないんだったっけ。小麦が見得張ったせいで。
「あー、まぁ、うん・・・折れたね」
渋々ながら、認めた。が、しかし。
「でも! あれはある意味事故だからね? 楽勝だったのは本当だし」
ね、ハル君っ! とそこで僕に振ってくる。
やめてくれ。そんなタイミングで僕に振るのは。
あー、3人の変な視線を感じる。
僕は、仕方なく、軽く目を逸らしながら答えた。
「あぁ、確かに楽勝だったな。結局、蹴り一発で倒したし」
「そんなこと、どうでもいいんです」
じゃあ最後まで聞くなよ。途中で止めてくれたっていいじゃないか畜生。
僕は少しだけ、哀しくなった。
「問題は、今あなたが怪我をしているという事実でしょう」
「は?」
きょとんとする小麦。
そう。
小麦にすれば、きょとんとする他ないだろう。だって――

「そんな怪我モンとっくに治ってるよ、、、、、、、、、

2人は、声を失う。
やむを得まい。あの事件から、まだ1週間も経っていないのだ。
骨折がその僅かな間で完治するはずがない、と思っているに違いない。
2人はまだ、小麦のことを、分かっていない、、、、、、、んだ。
「そんな、いくらあなたでも、そんな馬鹿なことって・・・」
動揺する委員長。
うん、らしくない。
あまりにらしくない表情に、僕はちょっとばかりゾクリとする。
平たく言うと、萌えた。
「本当だよ。ほら、見て見て。なんなら触ってもいいよ?」
小麦は自らの右手をヒラヒラと振ってみせる。
2人は、その手をまじまじと見つめたが――すぐに本当であると理解したらしい。
順応力が高いことで。僕なんか、最初は全く信じなかったけどな。
――小麦の回復能力は、異常なまでに高い。
それはあくまでも、対ロア戦で負った負傷に限定されるのだけれど。
切り傷程度ならその場で、骨折でも丸1日あれば完治してしまう。病院要らずだ。
はっきり言って、小麦は死なない。
だから、小麦は強い、、のだ。
「分かった? 分かったら、あたしも闘うからね」
むう、と小さく唸りながらも、それ以上誰も反論はしなかった。
代わりにと言っては何だが、小麦も委員長が闘うことを拒絶はしなかった。
無事、共闘の同盟を結んだと言えよう。
上出来、上出来。

結局。
最初の案の通り、A−僕、B−小麦、C−先生、D−委員長という配置となった。
僕からスタートし、最後の委員長が――居る筈のない5人目の肩を叩くことになる。
委員長の、計画通りだ。
――うん、これで良い。
満足した僕は、誰にも分からない程度に笑みをこぼし、頷いた。
そして。
「それでは、始めます!」
委員長の号令に従い、僕らはスクエアを開始した。



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