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私の通う学校は、変わり者の私が言うのも何だが、奇妙である。いや、「歪んでいる」とでも言った方が良いだろうか。とにかく、普通ではない。
この高校は、この地域有数の進学校だ。当然のように、頭脳明晰な生徒がごろごろとその辺に転がっている。
そのような生徒を失わないためか、或いは一般の生徒を優秀に育てあげるためか、多少他校よりも校則が厳しい。
私には、「歪み」原因はそこにあるように思えてならない。
この高校の生徒は、優秀でなければならない。他校の生徒よりも秀でていなくてはならない。全ての生徒が、模範生の型に填められる。その圧力に耐えられるか。耐えられない者が出て当然である。そして、その型通りに歩むことができなかった者は、自分で自分に愚者の烙印を押す。自分は世界中で最も出来の悪い人間なのだと思い込む。そのようにプログラムされているのだ。
そして、気が付けば、人としての道を踏み外していた。そんなこと我が校ではよくある話だ。
例えば、こんな話がある。
私のクラスのある男子生徒が、同じクラスの女子生徒に淡い思い−それこそ、「恋心」なるモノ−を抱いていた。しかし、彼は落ちこぼれた人種、彼女は型に填ることのできた人種であった。
そんなことは関係ない、そう感じるかもしれない。しかし、彼はそうは思わなかった。彼女のような理想的な人間と、自分のような落ちこぼれでは、天と地ほどの差がある。彼は、異常とも言えるほどの劣等感を抱いていた。
「この空間において、数字は絶対」
唯一の道しるべである教師に、直接的でないにしろ、そう指示されたのだ。彼の考えに揺るぎはない。
更に、その道しるべには、「男女交際の禁止」という指示もあったのだ。彼の思いは、彼女に伝えることはおろか、それを想像することすら許されなかった。
しかし、本心では、彼女を諦めることができず、その思いは自分すら気付くこともないほどゆっくりと強くなっていった。
そして、彼の感情は臨界点に達した。
その日、彼はその思いの全てを、違う形に変換して示したのだ。
−白い肌に触れていたい。艶やかな髪を撫で下ろしたい。その瞳に、自分だけを宿して欲しい。濡れた唇に、自分のそれを重ねてみたい・・・。
彼女の全てを、自分だけのものに。
その思いを両の手の平に宿し、彼女の細い首にまわす。
ゆっくりと、そして確実に、手の平から彼の思いが込められていく。
彼の悦楽の表情。
彼女の苦悶の表情。
そして、彼の思いは成就した。
腕の中で脱力する彼女の身体を、彼は優しく抱きとめる。
−もう、キミは僕だけのもの・・・。
彼は、彼女の頬にそっと口づけた。
私が思うに、彼にとっては、首を絞めるという行為が持つ意味の中の「殺意」というものが、普通の人が抱くそれとは微妙に違ったのではないだろうか。
それは、独占欲の表れ。
そして、自分が抱く思いを、感情を、理解して欲しいという儚い願い。
それらを、肉体を通じて直接彼女へと送り込む。つまり、首を絞めることは、言葉を投げかけることを許されなかった彼にとっての、最高級の愛情の示し方だったのだ。
ただ、この場合彼女の思いというものは存在しないので、どうしても独りよがりの感は否めないが。
しかし、そうは言っても、私はその行為を蔑む気はさらさらない。そんな、自分の気持ちを表現の手段を変えてまで示すことなど、私にはできるはずがないのだから。私は、臆病者なのだ。身体が傷つくことには慣れても、心が傷つくことには滅法弱い。
・・・いや、心が傷つくのが怖いから、身体を傷つける、という方法で逃げているのか。
だから、心が傷つくことを恐れなかったこの男子生徒には、尊敬の念すら覚える。
・・・幸か不幸か、私は現在、学校が定めた型に填ることができている。もちろん、上辺だけだが。
それにしても、人をここまで狂わせるほどに強固な型に生徒を填めて、一体何が得られるのだろう。・・・進学率以外に無いような気がする。
ああ、そうか。この学校は、生徒が大事な訳ではなく、生徒が残す結果が大事なのか。
その証拠に、学校は、進学率を上げる「優等生」に甘く、学校の評判を落とす「劣等生」に厳しい。更には、同じ行いでも、優等生は良く、劣等生は悪いという固定観念の色眼鏡で生徒を見ているのだ。
・・・私は、どの様な色眼鏡で見られているのだろうか。
あまり、考えたくないな。
私は、考察することを放棄した。こればかりは、生徒である自分がどう思っても変わることではない。決めるのは、学業の結果と、教師だ。
そう思い至り、私は軽い吐き気を感じた。
教壇で授業を進める教師が、歪んで見え出す。
彼らは、何の権利があって私たちの人生を左右するのだろう。いや、それ以前に、自分の気分次第で生徒の人生が大幅に変わっていくことに気付いている教師はどれくらいいるのだろうか。
年を取って頭が固い分、たちの悪さは子供の数倍であろう。
・・・これも・・・また、私の色眼鏡か。
少し自虐的に、私は思った。
今日も、そしてこれからも、永久に変わることの無い「学校」という空間のなかで。
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