「ハックアンドスラッシュ、というらしいんだよ」
「何の話だ」
唐突過ぎる、というのは結城に限っては今更な話。
だが今回は、単語の意味すら分からない。
「切り刻むアンド叩き斬る」
「・・・は?」
分からん。
「そういう概念があるのさ。以前作業ゲーは楽しいという話をしたな?」
したかもしれない。
覚えてない。
僕が黙っていると、コイツは基本的に肯定と受け取る。
理不尽なような、手間が省けて楽なような。
「その作業ゲーを突き詰めていくと、この概念にぶつかった」
結城は、実に嬉しそうに語る。
「世の中、どのジャンルにも先人はいるものだ。
そして作業ゲーを極めた先人はひとつの概念に辿り着いた。
それがハックアンドスラッシュ」
「だから、それは何だ。どんなものだ?」
「ただただ、敵を倒し続けることを楽しむプレイスタイルさ。
――そう、プレイスタイルであり、主義、概念だ。
間違っても、ゲームジャンルではない。
今日はその話をしよう」
「・・・どうぞ」
語りモードに入った結城を止めるのは無謀である。
僕は諦めて、読みかけの小説に栞を挟み込む。
「作業ゲーを突き詰めるうちに、俺はこの単語を知った。
そして今度は逆にその単語について広く調べた。
そして驚いた。
ハックアンドスラッシュ、通称ハクスラは、今ではジャンルとして確立している。
それは、主に数多くの敵を倒し続けるARPGのこと、とされていた。
ところがだ。
これは、俺の求める完璧な解ではなかった。
そして俺は更に遡る。
この言葉の発祥は、TRPGだ。テーブルトーク・ロールプレイングゲーム。
その中で、シナリオよりも戦闘、敵と戦うことに楽しみを見出すスタイル。
それこそが、ハクスラの始まりだ。
現代、RPGと言えばコンピュータゲームのRPGを指すようになってから。
ハクスラはARPGの形態のひとつとして収まる。
――俺には、ここが納得行かない。
元々は『敵と戦うこと』を主眼にしたスタイルを指した。
ならば、ARPGに限らずRPGでも、いっそアドベンチャーでもいいはずだ。
敵と戦う、その作業を楽しむ、それこそがハクスラの真髄なのだから」
「つまりお前はあれか。
今の世で広く語られるハクスラというジャンルに不満だと?」
「概ねその通りだ」
「・・・5秒もかからず説明できるじゃねえか!」
何を長々と語る必要があるのか。
コイツの講釈好きには、本当に呆れる。
「まあまあ」
僕を落ち着かせるように結城が言う。
そして再び講釈を垂れるのだった。
「更に言うなら、俺はこのハクスラを厳密に定義し直したい。
1、ゲームの主な目的を戦闘とすること。具体的にプレイ時間の8割が戦闘であること。
2、戦闘の積み重ねを表現すること。お金や経験値等でキャラ育成することだな。
3、2にランダム要素を加えること。レアドロップアイテムや、ランダムダンジョンだ。
以上3点、これを上手く繋げることで中毒症状にも似た感覚を味わえる」
明確に言うじゃないか。
それが正しいのかどうかは僕には分からないが。
「・・・で、それをどうやって実証して広めるつもりだ?」
「・・・こうやって、孝明に話すことで」
「お前の世間は僕だけかよ! 狭すぎるだろ!」
「とにかく、俺はもっとハクスラを広めたいんだよ。具体的には孝明に」
「・・・はいはい」
僕は溜息を吐きながら、再び小説に視線を落とした。
結城がまだ何か言っている。
今日はもういいだろ。
ノルマはこなしたと思うんだけどな・・・?
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