「孝明、ちょっと聞いてくれ」
「お?」
珍しく直球な登場に、僕は上手くリアクションができなかった。
そうだよ、話があるならそうやって切り出せばいいんだよ。
・・・と、思ったけれど言わなかった。
切り出し方が上手ければ何話してもいいってもんじゃねえよ?
「いや、昨日読んだライトノベルが面白かったんだが――」
「ほー、面白かったならいいじゃないか」
「よくないんだこれが!」
「ええー・・・」
何その理不尽なキレ方。
意味分かんねえよ。
「面白かったんだよ!
よくできたラノベだったんだよ!
――だけど、続きが出てないんだ!」
「いや、待てばその内出るんじゃねえの?」
「おそらくその可能性はないな。
というのも、この作品は2年前のものなんだ。
今のラノベ業界は非常にサイクルが早い。
2年前の作品の続きを、今更出すとは思えない」
「あー、なるほどなぁ」
「そこで思ったわけだ。何故2年もの間続きが出ていないのか?」
「人気がなかったんだろうな」
僕は特に考えることもなく、ストレートにそう言った。
「そう、その通り!
ネットで調べたんだが、高評価も低評価も殆ど見当たらない。
本当の意味で無名、人気がなかったんだな。
では、何故人気が出なかったのか?」
「結城以外の一般の人が、面白いと思わなかった・・・
違うな、低評価もないということは・・・
宣伝が足りなかった、とかか」
「一理ある。そしてそれは俺が思う原因と少し重なってるな」
「お前が思う原因って?」
「絵が致命的に地味なんだよ」
言って、結城は一冊の本を僕に掲げた。
可愛らしい女の子が、こちらを上目遣いで見上げてる表紙。
よくある、と言ってしまえばよくある感じなのかなぁ。
つまり。
「・・・確かに、ちょっと地味かもな」
この本が新刊ラノベとして陳列されていても、手に取ることはないだろうな。
いや、そんなもんは個人の好みだけどさ。
それにしたって、似たような構図のラノベは山ほどあって、没個性じゃなぁ。
きっと手に取るのは、もっと目立って、きらびやかで、可愛らしいものだろう。
「これ、中の挿絵も酷いんだよ。
いちいち読者の目を引かない。
だがまぁ、全ては表紙に現れてると思う。
そして購入前に分かるのは帯での紹介と、あとはこの表紙だ。
それだけ表紙ってのは重要ってことだな。
結局ラノベってのは文章要素6割イラスト要素4割だと俺は考えてる。
人によっては半々、どうかするとイラスト6割って人もいるだろう。
極端な話、文章はイラストを装飾するための背景的要素だと言ってもいい。
これは何も、ラノベが低俗だと非難しているわけじゃない。
そういう新しい文化なのだ。
それはそれで、大いに結構。
大衆漫画と小説――純文学の間を埋める存在として、実に有意義だ。
さて、このようにラノベというジャンルにおいてイラストは重要な武器だと言える。
ここで、文章だけなら100点満点の作品があったとしよう。
それに100点満点のイラストを付加して売り出す。
この作品の総合評価は、文章6割として、文章60点イラスト40点の合計100点だな。
では、今回俺が読んだこの作品はどうか。
文章は100点――と言いたいところだが敢えて辛めに90点としよう。
イラストは、どう見ても赤点だが、30点としようじゃないか。
この本作を、6:4で重み計算すると――
文章:90点×6割=54点。
イラスト:30点×4割=12点。
合計:66点。
どうだ、この作品は売れると思うか?
俺は、否だと思うね。
群雄割拠、海千山千、はたまた玉石混交。
今のラノベ業界で、新規タイトルを売りたいなら総合90点――
最低でも80点は必要だろう。
それが、7割を切るようではちょっと話にならない。
無論この辺は俺の主観に過ぎないが、それなりに本を読んで辿り着いた主観だ。
大きく的を外しているということもないだろう。
つまりこの作品は、小説というジャンルでありながら
『絵のせいで売れなかった』
ということだ」
・・・若干乱暴な意見ではあるが、なるほどと思わなくもない。
それだけラノベにはイラストの力が重要だということだろう。
そして、結局。
「結城は、この作品が不満なわけだな?」
「厳密には、この優れた文章作品の続きが読めないことが不満なのだ」
「あー、なるほどね」
よくあるファン心理で無名なものが有名になることを嫌う、というものがある。
結城の場合、逆なのだろう。
というか無名過ぎて打ち切りとか、ファンには拷問でしかない。
好きも嫌いも続いてこそ、ということだ。
「これでイラストが人気絵師だったら、アニメ化までいけた作品だと思うんだが」
心底残念そうに、結城は愚痴り続ける。
それはそれで極論というか、暴論だと僕は思うんだけどね。
と、思ったが口にはしないことにした。
一頻り残念がってしまえば、明日にはケロリと忘れているのだ、こいつの場合。
真面目に相手をしたって、損をする。
僕は身をもって学んでいるのだった。
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