僕と彼女と作業ゲー



「日本という国の国民性に、資本主義というシステムは合致しないように思う」

「・・・は!?」
いつものように、開口一番意味の分からないことを言う結城。

いや、違う。
今回は何と言うか、意味の分からなさの質が違うぞ。

「かと言って社会主義は論外だ。あくまでも資本主義をベースに、より進んだ――」
「待て、結城。正気に戻れ」
僕は結城の肩をゆさゆさと揺する。
「俺はいつも正気だが?」
しかし、それにも全く動じずに、しれっと言ってのける結城。

殴りたい。
超殴りたい。

「取り敢えず、何があったか最初から説明しろ」
仮にも相手は女である。
これでも。
一人称「俺」でも。
僕は暴力の衝動を堪えつつ、彼女に説明を要求した。
「ふう・・・仕方ないな」
やれやれ、と言わんばかりに、結城は事の発端を語り出した。

「作業ゲーって、何であんなに楽しいんだろうな?」

「・・・ちょっと待て。それが説明になってると思うか?」
「まあ待て孝明。話せば分かる」
多分分からない。
分からないけど、聞いてやるより他にない。

「いいか。例えば、ベタなRPGのレベル上げ作業なんかがそうだ。
 相手は明らかに格下、いわゆる雑魚キャラだな。
 そういった者を相手取り、ただただ攻撃していく。
 ただただ討伐していく。

 経験値はゆっくりと溜まり続け、やがてレベルアップするだろう。
 そうして攻撃力や防御力、生命力といった各種パラメータが少しずつ上昇していく。
 そうこうしている間に、お金も貯まるだろう。
 これまで買えなかったよりよい装備品を手に入れるのも成長を実感するひとときだ。
 ゲームによっては、スキルポイントのような別角度からのアプローチも存在するな。

 そうやって、キャラクターを強化し続ける。
 周りの雑魚はおろか、中ボスも楽勝な領域にまで育て、それでもまだ成長させる。
 まだまだ、雑魚キャラ討伐を続けていく。
 やらされている感を超越した何かが、そこにはある。

 その単純な作業の流れの中、思考はやがてあさっての方向へと飛躍するのだ。
 ああ、お金がいつの間にか一桁増えている。
 経験値が適正レベルの倍近く溜まっている。

 そういえばこの世界の経済はどうなっているのだろう。
 どうかしたら町ひとつ買えてしまう程の財力が、今の主人公にはある。
 それはこの世界の経済を混乱させ、破綻させる要因になりはしないか。

 そもそも、経済とはどうなっているのか。
 現実世界を振り返ってみたとき、果たしてゲーム内のような秩序が保たれているのか。
 魔王に脅かされる世界の方が、物価も安定し、経済的に優れているのではないか。
 そんな町を、国を治める王とはどのような政治手腕を持っているのか。
 現実世界の、日本の資本主義経済を、彼はどのように見るのだろうか――」

そして、最初の一言に繋がる、と。
そういう訳らしい。
なるほど分からん。

「そんな訳で、作業ゲーとは恐ろしいものだなという話だ」
「そんな訳で、じゃねえよ」
あまりにも飛躍が過ぎる。
それだけ無心になって作業をしていた、ということなのだろうけど。

「お陰で俺の勇者はレベル80を超えた」
ふふふ、と妙に自慢げに結城が言った。
「それってすげえの?」
最近のゲームは、レベルの上限が100を超えることも珍しくない。
単純に絶対値だけでは分からない部分も出てくるのだ。
「攻略サイト情報によれば、クリア時の適正レベルが50程度らしい」
「・・・お前は魔王を片手で倒すつもりか」
「あるいは素手で殴り殺してもいいかもしれん」
素手の勇者に撲殺される魔王。
実に不憫でならない。

「要するに、お前は暇なんだな?」
「・・・何を言う。俺はあくまでレベル99を目指してだな――」




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