「孝明、眼鏡は好きか?」
・・・どうしよう。
唐突すぎて意味が分からない。
呆然とする僕を無視して、結城は続ける。
「いやあ、俺は最近まで眼鏡のポテンシャルを侮っていた。アレはいいものだ」
「待て、僕を放置して話を進めるんじゃない」
「どうした?」
「どうしたじゃねえよ! 意味が分からないんだよ!」
「眼鏡は素晴らしいという話だ」
その話題で会話を進めるのは確定済みのようだった。
「いいか、いわゆる眼鏡キャラというものは、だ。
知的、クール、無表情などと相性がいいアイテムであることは間違いない。
つまり俺は最近まで、その程度の認識しかなかったわけだ。
ところがどうだ、この眼鏡を外すというテクニックにより、キャラの別の一面を表現できる!
ギャップが生じるわけだな!」
「・・・いや、そりゃ当然だろう」
割とベタな話だ。
今更、新発見でもなかろうに。
「そう、当然だな。
しかし当然ゆえにスルーしていたよ俺は。
灯台下暗しというやつだ」
今日もまた、結構な熱量である。
まったく、毎度毎度どこからそれだけのエネルギーが沸いてくるのか。
「例えば、普段意識していない相手と急接近、なんてのは恋愛モノのお約束だと言える。
ここで、不意に相手が眼鏡を外した姿を見ると――
それはもう、恋に落ちるしかないじゃないか!」
「お前はその程度で恋に落ちるのかよ!」
どうしよう。
幼馴染の惚れっぽさが、心配なレベルに達している。
「ツンデレとも近いな。
普段は無口で冷たいんだが、眼鏡を外すと意外と優しい目をしてる、とか」
「眼鏡越しでも分かるだろ、その程度」
「あははは! 孝明は分かってないなあ!」
・・・笑われた。
え、僕今何で笑われたの?
ちょっと意味が分からない。
「いいか、孝明。眼鏡はなあ、外してナンボみたいなところがあるんだよ。
起承転結で言えば、『転』で眼鏡を外す!
これが鉄板だな! 様式美、伝統芸能とさえ言えるだろう」
・・・ぷちん。
僕の中の、何かがキレた。
「眼鏡は、外してナンボ、だと?」
「ん?」
「分かってねえのはお前の方だバカが!
眼鏡を外してどうすんだよ、折角の眼鏡を外すな阿呆!
いいか、眼鏡は目の一部だ。
視力矯正器具であり同時に美の中心だ。
眼鏡キャラは眼鏡込みでひとつのキャラなんだよ。
それを外すとか、意味が分からねえ!
いや、百歩譲ってそういうキャラがいてもいい。
ただ、そいつは眼鏡キャラじゃねえな! 普通のキャラだ!
眼鏡をただのアクセサリーと同列に語るんじゃねえよ!
オシャレ気分で掛けたり外したりすんじゃねえよ!
眼鏡キャラにとっての眼鏡ってのは、そんな浅いものじゃない。
もっと、魂の根っこに根付いてるモンなんだ!
たかだか2面性を表現したい、程度で外していいモノじゃねえんだよ!
いいか、眼鏡は、何があっても外しちゃダメなんだ。
チャラチャラと安易に眼鏡を外すようなヤツは所詮色物なんだ。
そんなヤツに惚れるなんてのは、真の眼鏡好きとは到底呼べねえよ!
眼鏡キャラの真髄は、眼鏡にこそある!
そこに眼鏡があるからこそ!
キャラは活きるんだ!」
「・・・・・・おぉう」
「・・・・・・あ」
・・・やってしまった。
結城、ドン引き。
そして。
「・・・何か、ゴメンな?」
謝られたー!
違うんだ。
謝られるようなことは、何もないんだ。
「えーと、俺も、眼鏡掛けた方が・・・いいか?」
「いや、マジ勘弁して下さい」
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