最強という称号



「最強の能力って何だろう」
「お前を黙らせる能力だな」
「まあ聞け孝明」

そんな感じで、いつもの雑談が始まった。
実のない会話の時間である。

「バトル漫画は数あれど、各漫画における最強の能力はバラバラだよな?」
「・・・漫画の話か」
「当たり前だ。
 いや小説でもいい。
 とにかく、最強の単一能力とは何だ?」

最強ねえ。
と、僕は考える。
実は、その言葉の響きは結構好きだ。
男の子だったら、誰しも多少はそうだろう?

「例えば、地球を割れる腕力、とか?」
「そうそう。光の速さで動ける能力とかな」
なるほど。
そういう、古今東西あらゆる能力を比べて最強なのは何だろうという話か。

「ちなみに」
そこで、結城は注釈を入れる。
「ある程度分かりやすい、ベタな能力に限らせてもらう」
「何でさ?」
「複雑な能力だと分かりにくいだろう」
「限定条件が多すぎるのはダメ、とかそういうこと?」
「そう、シンプルに一言二言で表現できる能力に限る。分かりやすい最強だな」
ふむ、そうなると考える余地は狭まって、逆に面白いかも知れない。

「じゃあ、破壊力系の最強で、原子を壊せる能力」
僕はとっさに思いついた能力を口にする。

「おお、最初からなかなか壮絶なものが出てきたな。それ不可能じゃないか」
「一応、原子核や電子っていう最小単位もあるぞ。詳しくは知らんが」
我ながら責任感のない発言だった。
反省はしていない。
そういうお題だから仕方ないのだ。

「ふむ、触れたものを必ず壊せる、ということか。でもなぁ」
「でも?」
結城は微妙に納得していない様子だ。
「さっきの、光の速さで動ける、の方が強い気がする」
「あー。触れられないから?」
「そうそう」
確かに、どんな破壊力も当たらなければ意味がない。
ん? でもそうなると。

「この前、光より速い物質が見つかったとかニュースで言ってなかった?」
聞きかじりの最新情報を挙げてみた。
そうなると、光の速さより上があるということだ。

「あれはただの計測ミスという話もある。
 一応、現時点では光が最速としよう」
一瞬で却下された。
よくそんなこと知ってるな、こいつ。
しかしそうなると、次の案は決まりだ。

「じゃあ、時間を止める能力」
「お、出たな、ラスボス的能力」
「勿論、自分以外の時間を止めるんだぜ。
 使用者は止まった時間の中を自由に動ける」
これで、相手が光速であっても関係ない。
時間を止めて殴り放題だ。

だが、結城はそれでもひるまない。
「ふふ、それくらいは想定内さ」
「何だと・・・?」
時間を止める以上の能力があるというのか?

「因果律を操作する能力、俺は今のところこれが最強だと思うね」

ウザいドヤ顔で、結城は言った。
「い、因果律か・・・またとんでもないものを」
つまり、原因と結果の関係を弄る能力、ということだ。
これも一部では割とメジャーな能力である。

例えば、
『パンチを打つ→相手にパンチが当たってダウンする』
という『原因』と『結果』を入れ替える。
すると、パンチを打つ前に既に『当たる』という事実は確定済みということになる。
よくよく考えると意味が分からないが、要するに必中不可避の能力だと考えるといい。
パンチ程度なら致命傷になり得ないが、これが刀とか銃だとアウトだ。
攻撃の前に、斬殺・銃殺という結果が確定していることになる。
これはもう光の速度云々以前の問題である。
ぶっちゃけ単体攻撃なら核兵器より強い。
そうなると、もうお手上げではないだろうか。

「どうだろう。これ以上に強い能力は、有り得るだろうか?」
ないと思うがね、と言いたげな顔。
何かムカつく。
別にお前が偉いわけじゃねえだろう。
と、そこで少し思いついた。

「そうだ、時間を巻き戻す能力ってどうだろう?」
「ほう?」
「時間を巻き戻して、能力者だけがその事実を認識できる。これならどうだ」
「しかし、『絶命』という因果を覆すことは・・・あ」

「うん、だから、死をトリガーに巻き戻しを開始する能力ならいいわけだ」

これはなかなか妙案じゃないだろうか。
因果律を逆転しようが、バトルである以上相手はこちらの『死』を狙う。
であれば、その『死』をシステムに組み込んだ能力だったらどうだ。
自分が死ぬ、それをきっかけに時間が巻き戻る、記憶を持ったまま過去へ戻る。
これで万全だ――と、そこで。

「ちょっと待った!」
この案には物言いがついた。

「それはちょっと、微妙じゃないか?
 何を持って決着、勝負ありとするかという話になるが、一度死ぬわけだろう?
 死をもって決着と考えるなら、死んだ時点で負けている。
 その後に何をしようと、それは無効と考えるべきじゃないだろうか。
 さもなければ、最強の能力は死んでも生き返ることができる能力になってしまう」

「う」
まぁ、それを言われると・・・そうかな?
何せ、『死』をシステムに組み込む能力である。
決着後でなければトリガーは弾かれない。
それはつまり、決着しなければ能力自体が発動しないということだ。
意味がない。
かと言って『死』以外をトリガーとするなら、因果律操作でどうしても負ける。
むう・・・やはりダメか。

「名案だと思ったんだけど」
「ああ、確かに相当危なかった。というか、ルール次第では最強かもしれない」
「でもまぁ、ルール無用になると、最強の概念の意味がなくなるしな」
そもそも、話の土台がフワフワしている。
定義からして曖昧な部分が大きいのだ。
なかなか難しい話である。

「うーん、ダメだ、何も出ない」
数分後、僕はギブアップ宣言をした。
「やはり因果律か」
同様に考え込みながら、結城は納得したような声で言う。

「狡いことでよければ、ひとつあるんだけどな」
ぽつりと呟く僕。
それに結城は、
「え、何かあるか? 裏技でも何でもアリだぞ、取り敢えず言ってみてくれ」
と前のめりで問いただす。
「うーん、そんなに真面目に聞く話じゃないんだが」
乗り気ではないが、言うだけ言ってみよう。

「『可愛いは最強』っていう」

「・・・あー」

僕の発言に、納得したような呆れたような、複雑な笑みを浮かべる結城。
「それはまぁ、最強・・・と言われれば最強なのかなぁ」
「うん、戦うこと自体ナンセンスなんだよ、平和サイコー・・・みたいな?」
「ええと、まぁ、うん・・・狡いな」
「ですよねー」

そんな感じで、特に結論が出ることもなく。
今日もグダグダに雑談は閉じる。




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