ロリコンは個性だ



「ロリコンの話をしよう」
「帰れ」

結城が僕の部屋に入って2秒で話は終わった。
最短記録。
めでたしめでたし、である。

「いいじゃないか、話をしよう孝明」
「・・・話をするのは構わんが。何の話を?」
「ロリコンだ」
「帰れ。違う、死ね」
「言い直して酷くなった!?」
「お前は病気か?」
僕は頭を抱えて溜め息をつく。
なんでこんな奴が幼馴染なんだろう。
親兄弟は選べない、という話はよく聞くが、幼馴染だって選べないじゃないか。

「とにかく、話を聞け孝明」
「何だよもう・・・」
どうにも、要求を聞くまで開放してくれないらしい。
いつものことといえば、いつものことだ。このローラ姫め。

「ロリコンは個性であり尊重すべき、という話だ」
結城がまた無茶な話を持ち出してくる。
「ロリコンは犯罪だろ」
僕は普通に、自然に答えた。

「違うぞ孝明。犯罪なのは、未成年の子に対して危害を加えた場合だ」
「だから、危害を加えるのがロリコンだろう」

「駄目だな、まず定義が違う。
 ロリコンイコール性犯罪者と思っていないか?
 それは定義ではない。
 ここでは、幼い子供を好む性癖をロリコンとする。
 好む、つまり嗜好であり思想だな。
 これはどんなものであれ制限されない。
 つまり、幼い子供が好きだ、というだけでは犯罪ではない」

「あー。実際逮捕されてるのは、子供が好きで且つ手を出した人、ってこと?」

「そうそう、その『手を出した』がマズい。
 それが犯罪だ。
 逆に、子供が好きでなくとも手を出せば犯罪、ということだよ」

「まぁ、言いたいことは分かった」
不本意ではあるが、そこまではまず定義として納得した。
・・・そうしないと、この話が終わりそうにないからな。

「さて孝明。
 ここで、少し離れるがツンデレは文化だということを宣言したい。
 ツンデレについては説明不要だと思うが、これが外国語に訳せないらしいんだな。
 概念を説明することは勿論可能だが、ひと単語で端的に表すものはないらしい。
 ソースはネットなので、これはまぁ都市伝説程度に聞いてくれ給え。

 しかしこの概念、それ自体は昔から世界各地に存在することは明らかだ。
 日本の『源氏物語』を例に出すまでもなく世界中の神話に登場する。
 それだけメジャーな、ベタな概念というわけだな。
 これはもう、ひとつの文化と言える。
 ツンデレは尊重されるべき文化だ。

 で、あるならば、だよ孝明。
 ロリコンだって同じことじゃないか。
 幼児性愛を題材にした古典などそれこそ『ロリータ』を挙げるまでもない。
 世界各地、古今東西、至る所に存在する。
 強いてツンデレとの違いをあげるなら、犯罪に結びつきやすいということだね。
 幼い子供を性愛の対象とした時、もしそのまま行為に及んだなら犯罪だ。

 そこが危うい。
 不道徳な匂いがプンプンする。
 しかし、だ。
 危ういからアウトなのか? 劣るのか? 罪なのか?
 勿論答えはノーだね。
 現代日本、思想だけであればどんなものであれ肯定されるべきだ。
 少なくとも、俺はそう思う。

 悲しいがこの考えは一般に理解されていると言い難い。
 ロリコンイコール犯罪者という誤解は、一般には当然とされるフシさえある。
 何故だ。
 あらゆる性癖に寛大な日本で、何故ロリコンだけがそこまで差別されねばならない?
 俺にはそれが理解できない」

長い講釈を終え、一息ついてペットボトルの水を飲む結城。
どうでもいいけどそれは僕のだ。

「・・・まぁ、何だ。そうは言っても、やっぱりロリコンは危険だと思うぞ」
「どうしてだ?」
「好きな相手が幼女だと、我慢できなくなったら即アウトじゃないか」
普通に同じ世代が相手なら、ある程度手を出しても問題ない。
無論同意の上であれば、の話である。
しかし相手が幼女・・・というか幼児の場合、仮に同意の上であったとしても犯罪だ。

「それは我慢出来ない本人が悪いのだ。ロリコンという概念自体の罪ではない」
――つまり、思想でなく行為が悪だとする理屈か。
「言ってることは分かる。けど、ロリコンでなければ罪を犯さなかったかもしれない」
「むぅ」
「思想そのものは罪でなくても、その思想のもと発生した行為は悪だろ」
「それはまぁ、否定できないが」
「だから、遡ってその思想も悪である・・・とまでは言わないけどさ」
「多少煙たがられるのは仕方ない、と?」
「うん、大体そんな感じ」

個性も思想も大事だし尊重すべきとは思うが、他人に害をなす恐れがある場合は違う。
少なくとも、ロリコンの側に自分の子供を置きたいとは思わない。
「孝明の言い分は確かに頷ける。しかし、微妙に筋が通っていないんだよなぁ」
結城が唸る。
どうにも納得がいなかいようだ。
その気持ちも、まぁ分からないではない。
多少以上に、煙に巻いた感は否めないしな、自分でも。
とにかく僕は、これ以上この話題に触れていたくないのだ。

「孝明はどうだ、そう言っているが、ロリコンは悪だと思っているか?」
「個人的な意見で言うなら、そこまで悪とは思わねぇよ。
 思想だけなら好きにしろと思う」
「ほー。つまり、最初に否定してかかったのはあれか、世間体的なものか」
「まぁ、世間体と言うか一般論というか」

「そうやって常に自分を理論武装しておかないと理性が持たないとか?」

「ないよ」

・・・・・・あッぶねえ!
何とかサラリと回避した風を装うことに成功したぜ。
ひやひやである。まさに綱渡り。

ロリコンについて色々問われると、正直僕自身危ないのだ。
何せ日本では子供と言われる区分が、18歳未満となっている。
僕の場合で言うなら、現時点で2歳以上年下の子が相手だとアウトとなる。
――つまり僕は、理論の上だけでいうと立派なロリコンなのである。
美沙ちゃん、まだ高校生だもんな・・・。

取り敢えず急場は凌いだ。
結城もそれ以上は特に突っ込むこともなく、この話題は終了となった。
具体的にどんな結論になったのかとか、細かい部分は覚えていない。
とにもかくにも、ロリコンのレッテルを貼られることは避けたということだ。

今度こそ、めでたしめでたし、である。




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