「背が高くて羨ましいね、と同じ講義を取ってる女子に言われた」
「へえ。よかったじゃないかー」
「・・・まあ、聞け孝明」
ちっ。
最近、僕の全力スルーを見逃してくれない結城さんだった。
「俺が思うに、だな。背が高くて得なことなどそうそうないのだ」
「そうかぁ?」
ちなみに、結城は僕より少し背が高い。
・・・ほんの少しだよ? 本当にほんの少しなんだからね?
ともかく。
今回はどうも、その辺のコンプレックスについての話になりそうだ。
「高いところにも手が届いて便利、とか?」
取り敢えずベタな利点を挙げてみた。
「脚立を使えよ。あと、むしろそれで他人から使われることの方が多い」
即座に反論する結城。
確かに、母親なんかは高いところのものを取るのに僕を使う。
それは結城の家でも同じようで、何やら嫌そうな顔をしている。
「満員電車で息苦しくない、とか」
「そこまで高くない。190cm超えないとその利点はないんじゃないか?」
「・・・まあ、そうかもな」
「というか、そもそも満員電車をそんなに経験したことがないな」
大人になって毎朝電車通勤するようになったら分かるんじゃねえの、と思う。
敢えて言わないけど。
「じゃあ、見た目かなぁ。それって女子が言い出したんだろう?」
「ああ、女子だな。あんまりよく知らない相手なんだが、世間話的に」
「だったら、やっぱ見た目の話なんじゃないか? モデルみたいだ、とか」
「ふむ・・・しかしな」
お。今回は即座に切り返さないぞ。
何やら少し考えこむ結城。
「そもそも・・・モデルは何故背が高い必要がある?」
「いや、何かバカみたいな答えになってすまんが、格好いいからだろう?」
「ああ、では定義としよう。背が高いと格好良い、と」
で、あるならば。
と結城は続ける。
「いくら格好よくても、モデルの本分は服をよく見せることだろう?」
「まぁ、そういう仕事だもんな」
「服は、大衆・・・ここでは一般的な日本人女子だな、が買うものだ」
「そりゃそうだ」
「なら、背が高いとむしろ参考にならなくないか?」
一般的な日本人女性の平均身長なんて知らない。
しかし、多分150〜160cmの間くらいだろうか。
よくモデル体型と言われる人たちは、女性であっても170cmくらいはある気がする。
確かに、平均身長より10cm以上も高いということになるだろう。
「な? 変な話だろう?」
「そうだな・・・まぁ、言われてみると変かもしれない」
「ま、今回の話には関係ないんだけどな」
「関係ねえのかよ!」
なかなかな時間の無駄だった。
時間の無駄で言えば、結城とダベってる時間が既に無駄なんだけどね!
「話を元に戻そう。結局、俺は背が高いと言われても嬉しくないということだ」
と、結城が仕切り直す。
モデルの件は本当になかったことにするらしい。
「背が高くても利点なんかない、と?」
「ああ、むしろ女らしくない気がしてなぁ」
「・・・はあ」
「なんだ、そのどうでもよさそうな返事は」
だって、なぁ。
僕は思ったことを正直に言った。
「だって、お前が男らしいのは、背が原因じゃないよ?」
「なん・・・だと・・・!?」
「いや、そんな少年漫画風にビックリする話か!?」
「衝撃の事実だ。孝明が俺を女扱いしないのは、孝明より背が高いからだとばかり」
「ちげぇーよ!?」
僕はそんなちっちゃい男じゃないよ!?
二重の意味で!
「そもそも、という話をしよう。結城は、女らしくなりたいのか?」
「ああ、どちらかと言えば」
「うん。それが既に僕にとって衝撃の事実だ」
一人称「俺」という時点で、既に女を捨てている感があるのに。
そんな奴に女らしさなんて、それこそ微塵も感じない。
「背が高くても、女らしい人なんていくらでもいるだろう?」
「そうなのか?」
「そうなんだよ!」
こいつはもう、根っこからおかしいんだと思った。
「だから、背が高いイコール男っぽい、というわけじゃない」
「しかし、孝明」
「ん?」
「背が低い女の子は、可愛いと思わないか」
「・・・・・・思うなぁ」
「それみたことか」
急に得意げになる結城。
うわー、ウザいわー。
「背が低い子は、何だかもうそれだけで愛らしい。なら、逆も然りだ」
「背が高い子は、可愛くないと?」
「そう、その通り。だから俺は、背が高いと言われても嬉しくない」
むう。
なんだか無理矢理に結論づけようとしているぞ。
確かに、小さいというのは可愛い要素のひとつと言える。
しかし、だ。
「背が高いから可愛くない、というのはちょっと飛躍してるだろ」
「そうか?」
「さっきも言ったけど、背が高くても女らしい、可愛い人だっている」
「それは例外というやつだ。わずかな例外を挙げて全体を否定するのはナシだぞ」
「うーん、そう言われるとなぁ・・・」
背が低い子は一般的に可愛い。但し例外もある。
これは分かる。しかし。
背が高い子は一般的に可愛くない。但し例外もある。
これはイマイチ納得いかない。
だが、例外を挙げて重箱の隅をつつく以外の反論が見当たらない。
「ふふん、特に異論はないようだな?」
またも得意げな結城。非常に腹立たしい。
「というわけで、以後俺に対して背が高いというのは悪口だと認定する」
「えー」
別に身長のことで結城をいじろうだとか、そういうことは考えてもないわけだが。
明示的に禁止されると、それはそれで何だかムカつく。
「ま、だからといって結城が女らしいとは言えないわけだが」
「うん・・・それはまぁ、今回の結論では否定できないなぁ・・・」
どうやら、別の課題が持ち上がったらしかった。
うん、すげえどうでもいいです。
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