浮気の定義



「浮気って、どこからが浮気なんだ?」
新刊のマンガ本を片手に、そんなことを尋ねる結城。
「知らねえよ」
即答してやった。

「・・・孝明、最近俺に対する冷たさが増してないか」
そんなことはない。自然な対応である。
「仕切り直して。なあ孝明、浮気ってどこからが」
「ええい面倒臭い! 繰り返すんじゃねえよ! 一回で分かるよ!」
無限ループの気配に、早くも僕は限界だった。
こいつはローラ姫か。

「で、浮気だっけ?
 そんなもん、彼氏彼女持ちが他の人と並行で付き合ったら、だろ」
やむを得ず、僕は真面目に答えた。

「そこなんだよ。
 付き合う、というのは別に書面で契約を交わすわけではないだろう」
「そりゃそうだが」
「じゃあ、交際状態にある人間が、別の人間と、何をしたら浮気になるのだろう」
「まぁ、それは永遠のテーマというか。微妙なところだろうな」
「はい、じゃあ具体例行きまーす」
慣れた展開に、結城は躊躇いなく例を挙げる。

「そのいち。二人で会う」
「それはセーフじゃね? 偶然会うこともあるだろうし」
「じゃあ、約束して会う」
「うーん、ギリギリセーフだと思うけどな」

「ふむ。では、そのに。二人で食事」
「それは、アウトだという人もいそうだけど・・・まぁセーフ?」

「では、そのさん。手をつなぐ」
「あー、何かちょっと浮気っぽい」

「なるほど。ではそのよん。キスをする」
「それは浮気だな。アウトです」

これ、そもそも僕が判定していいのかという疑問は残るのだけど。
まぁこの場に僕以外の判定員はいないので、そこは仕方ないとしよう。

「ふーむ。大体、『手をつなぐ』以上の接触でアウトな感じか」
「いや、そりゃ個人差はあるだろうけど」
「ハグはどうだ?」
「あー、何だろう。ハグって逆に健全でセーフな気がする」
適当である。
何か外人の挨拶みたいじゃん。イメージって怖いな。

「難しいなー」
「そりゃそうだ。一括りにココから浮気ですってラインなんか決められねえよ」
だから浮気の問題は難しいし、いざこざも絶えないのだ。
僕らがここで駄弁って解決できる範囲は余裕で超えている。

「ちなみに、孝明の場合はどうだ?」
「僕?」
「例えば、俺が他の男子と手を繋いでいたら?」
「別に」
「他の男子とハグしていたら?」
「欧米か! って突っ込む」
「他の男子とキスしていたら?」
「その場から立ち去る」

「・・・・・・じゃあ美沙が」
「相手の男を殺す」

「分かりやすい男だな君は」
何を言う。美沙ちゃんはまだ彼氏とか早いんだ。それだけだ。
他意はないぞ。絶対に。

結城はその日ずっと不機嫌だった。
何故だ。
こいつのことはよく分からん。




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